
欅ものがたり
『欅ものがたり』は、〈一本の大欅〉との出会いから始まった。かつて実家の庭に佇んでいたその大欅は、子孫家屋の大黒柱となるべく、ひっそりと寝かされていた。私たちは、この大欅を通して先祖に対する畏敬を感じ、建築主の精神的支柱とすべく〈棟持柱〉として立てることにした。時に、優しく孫を愛でる祖父母のようにも、祈れる御神木のようにも感じられるように。そして、その棟持柱と家族の平穏な日常を〈鞘堂〉の原理で包み、霊峰立山の〈庇護感〉の内に据えた。

所在地/富山県氷見市
主要用途/住宅
家族構成/夫婦+ 子供1 人
設計/馬淵大宇研究室+ 風建築設計工房
担当/馬淵大宇 山田雄一 協力/秦明日香 金子航輔
施工/棚田建設
担当/棚田毅 棚田創
規模/階数 地上1 階
敷地面積 463.41 ㎡
建築面積 104.29 ㎡(建蔽率22.50% 許容70%)
延床面積 103.58 ㎡(容積率22.35% 許容200%)

欅ものがたり
Ⅰ.〈一本の大欅〉との出会い と『欅ものがたり』のはじまり
先祖由縁の〈一本の大欅〉との出会いから、共感可能な「ものがたり」がはじまる。
『欅ものがたり』は、〈一本の大欅〉との出会いからはじまった。立山山麓の田園風景が広がる長閑な橋の麓に、酪農を営んだ本家の「分家」を建てることになった。本家の納屋を覗くと、大割りされて十数年も天然乾燥されていた長さ5m,450mm角もの大欅が寝かされていた。元は、代々本家の庭に聳えていた大樹だったようだ。私たちはこの大欅に、未来永劫子孫が栄えるようにと願った先祖の気配(呼び声)を感じた。設計は、自ずとこの大欅を〈棟持柱〉として立てるところから始めることになる。建築主の精神的支柱になることを願って。

Ⅱ. 21 世紀における〈平和的ロマン主義建築〉への挑戦
「現実」と「おとぎ話」の狭間で、世界の片隅の「何気ない平和」を共に考える。
敷地からは、北アルプス・立山の絶景が一望できる。富山県民は、等しく霊峰立山の〈庇護感〉を原風景に有している。また、原風景の〈庇護感〉は、立山信仰に語られる阿弥陀如来の加護の光景によって裏打ちされている。『欅ものがたり』は、自ずと住み手と作り手の間で共有される、その原風景を背景に広がっていく。



先祖由縁の〈一本の大欅〉は、立山の麓の小さな集落から、世界を股にかける大棟さえも支えるかのような貫禄を放っていた。私たちは、この住まいの棟をその〈一本の大欅〉に託した。〈棟持柱〉となった〈一本の大欅〉は、時に優しく孫を愛でる祖父母のように、時に祈れる御神木のように、この住まいを支える。



また、私たちは、この住まいの外観を〈鞘堂〉の原理で構成した。そして、その形態の原型には、立山信仰に語られる阿弥陀如来の手掌を意識した。つまり、阿弥陀如来が合掌する様子をオマージュし、両掌に〈棟持柱〉とその基に営まれる家族の平穏な日常が包まれる光景をイメージした。それにより、どっしりと構えつつ内を包み、また、合掌の隙間から地域に開かれた印象を同時に実現させた。
